《欧亚美术》  犍陀罗艺术 

Gandhara Antiques specialty shop
 

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COLUMN 5


ガンダーラ
秘話(4)

Dr. Eilenberg
 

 

この商売をしていて、たくさんの人にめぐりあった。多くの興味ある人の中の一人であるDr.Samuel Eilenbergについては、ぜひ書いておきたい。

 ドイツ生れのユダヤ人学者。数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞の受賞者であり、プリンストン大学の教授、15年ほど前に亡くなっている。

 友人から聞いた話によると、家族皆アウシュビッツで亡くなったという。彼一人生き残り、単身アメリカに渡り、苦学して数学者として大成する。

 大の骨董好きで、特に東南アジアやインド・ガンダーラの古美術品の蒐集に熱心であった。熱心というより狂気じみていた。ロンドンのマンション(ニューヨークから来てロンドンで骨董あさりをするためだけのもの?)に何回かお邪魔したことがある。

 2LDKのマンションに入ると、離婚(別居?)して一人でいらっしゃることもあるが、生活の匂いが全く感じられない。台所にも居間にも寝室にも、彼がアジア各地で集めて来たものが、所狭しと壁一面にかけられている。特にブロンズが多い。欧米人はブロンズを好む。居間にはソファーと机以外は古美術品だけという異様な空間。無駄なものは一切置いていない。その中に大きい古い木の机(おそらく19世紀もの)があり、机の上には何もなく、皮敷の上には一枚の白い紙。その上に複雑な数式が二、三行だけ。今も私の脳裏に焼き付いていてその様子を思い浮かべることができる。

 アメリカの有名大学教授とはいえ、そう収入があるわけではないだろう。だから(だからというわけでもないが)ケチケチとお集めになる。ご自分でパキスタンの山奥やジャワの山奥に一人で歩いて探しまわる。我々業者顔負けである。

 あるときロンドンの古美術街にある行きつけの小さな店に立ち寄った。若い女性の店で、ギリシャ・ローマのものの小さなおもしろいものをもっている。いつも行って少しいただいていく。「サムがもうさっき来てあんたのことを探していたよ。」おどろいた。骨董屋の若い女性がノーベル賞級学者を気軽に「サム」と呼ぶ。そして私を探していると。何故?電話をすると氏はマンションにいらして「ロンドンに来て、どうしてオレに連絡をよこさない。すぐ来いよ」大変うれしいことである。すぐに氏のマンションに出かけた。

 自分の最近の蒐集品をひととおり見せて自慢したあと「これを買え、あれを買え」となった。要は私への売り込みである。欧米のコレクターはどんな大物のコレクターでも(アメリカのホテル王のような人でも)自分のコレクションを売る。気に入ったものは手ばなさないが、そうでないものは売ってまた買う。つい3年ほど前にニューヨークのオークションで中国の青銅器が10億円で売られた。所有者は世界有数の富豪ルイ・ヴィトンのオーナーであった。そのお金はルイ・ヴィトン記念館の建設に使われたようであるが。

 Dr.アイレンベルグも何のことはない、ロンドンのマンションを拠点にして売っているわけである。これで私を探していたわけもわかったし、若い古美術商が彼を気軽に「サム」と呼ぶのもわかった。仲間だもの。

 かくしてDr.Eilenberg collectionはできあがった。あまり大きいものはないが、ブロンズを中心としたすばらしいコレクションができあがった。そしてこのコレクションをニューヨークのメトロポリタン美術館に寄贈するという。すごいではないか!

 その件でイギリス人の友人ディーラーにたずねると、彼答えて曰く「うん、そうなんだよ。メトロに重要なものは売って、小さいものを全部寄付したらしい。」とウィンクしてにんまり笑った。単純な日本人の私としては、また仰天である。いずれにしても氏の立派なコレクションがメトロに並び、それを記念して展覧会が開かれ、写真のような本(The Lotus Transcendent,The Metoropolitan Museum of Art)が出版された。(つづく)

 

 

 

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