ガンダーラ地方から出土する化粧皿は紀元前1世紀〜後1世紀ぐらいと考えられています。ここに出した化粧皿(の優品の方)はおそらく紀元前50〜後50年の間のものと推定されます。後期ヘレニズムです。前掲のシリア出土の2世紀といわれるレリーフと比較しますと違いがあります。シリア出土のそれは様式化・硬直化したローマです。それに反してこの化粧皿はヘレニズムと言えるでしょう。
前掲の右肩の欠損した化粧皿も同じ神話を表したものです。同一作者のものではと思われるほど彫刻は似ています。こんなギリシャ神話を愛し彫刻化した人がチャルサダに住んでいたということです。すなわちギリシャ文化(ヘレニズム)を持ったインド・グリークがペシャワールの少し北の地に住んでいた。確かに、近年イタリア学衛隊のスワート・ブトカラの発掘によりインド風な稚拙な彫刻が多数出土し、ガンダーラで最も古いのではないかと考えられています。その通り、これらのブトカラの彫刻が一番古いのではないかと私も考えます。しかしだからと言って、チャルサダあたりにあるインド・グリークのヘレニスティックな彫刻がガンダーラと無関係であるはずがありません。
ここで、ローマ美術の影響があることを考え合わせなければなりません。ガンダーラにおけるグレコ・ローマンの影響はギリシャでなくローマだと主張する学者がいます(特にアメリカ)。時代的にもガンダーラはローマ時代に対応します。ローマの影響が強くガンダーラにはあります。私は常々言っていますが、アフガニスタンのハッダは文化的ローマの植民地だと思います。
有名になったスイスのオルティス・コレクションのローマ風な菩薩の大理石の頭部は、ローマ彫刻との対比から2世紀後半と考えられています。ローマで作られたものかも知れません。
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