《欧亚美术》  犍陀罗艺术 

Gandhara Antiques specialty shop
 

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COLUMN 3


ガンダーラ
秘話(2)

シッダルタ太子 大理石、
伝ペシャワール近郊出土、
h.58cm

George Ortiz Collection(
スイス)
 

 

 Hの家は、ペシャワールの雑踏をぬけ出た郊外にあった。芝の庭のある大きな家である。使用人が二人で大きな木箱を芝庭に持ち出して、蓋を開ける。こっちはドキドキである。あまりにも箱が大きい。「写真は撮らせない」と釘をさされる。よくあることで、了解。

「外国人でこれを見せるのはyouが初めてだ」Hもへたな英語を話しはじめた。

「大変光栄なことである」と応じたが、Hに通じたかどうか。

 さてさて、大きな箱の中に鎮座ましますのは、この写真の頭であった。ガンダーラには見かけない大理石である。うず巻き状の髪の毛の彫刻は正にローマ彫刻である。はたして、ガンダーラなのか。あまりに割れがひどい。特に鼻が完全に欠損している。しかし彫刻としては秀逸で、すごい。驚きの連続であった。

 

 ディラー(商人)として私は「この頭は売るのはむずかしい」と即座に判断した。安ければ買っておいても、というのが私の結論だった。

 私の相棒(パキスタン人のディラー)が「いくらオファーする?」と聞いてくるが、私は答えなかった。あとで相棒から、Hは数千万円のことを考えていると聞いた。上の方の数千万である。へたにオファーしなくてよかったと私は思った。あとを引かずにあきらめられた。この頭のためだけにパキスタンまで来たのだったが「すごいものを見せてもらった」というさわやかな気もちだけが残り、旅行が無駄には感じられなかったのが幸いだった。

 

 それから5年が過ぎた。その間、我々ディラーの間では、「あの頭まだ売れてない」「売れてない。高すぎるもんな。Hは値を下げない」といううわさばかりだった。が、5年後「売れた」と。

 ニューヨークにオバサン・ディラーがいる。彼女の店のテーブルの下に、この頭の写真があったそうな。そこへ訪ねてきたMr.オルティスがこの写真に目をとめ、「これ何んだ」ということになったそうな。そして、「これ買って来い」と。

 ジョルジュ・オルティス、スペイン人でその祖は南米の鉱山で荒稼ぎし、第一次世界大戦後の世界一の金持ちという(現地人を奴隷のように使って金属鉱山を掘らせ大金持ちになった悪い奴?ごめんなさいオルティスさん)。はんぱじゃないファミリーの一人である。スイスのジュネーブに住み、古美術の大コレクションを所有する。私からも化粧皿のいいのを一点買ってくださったし、私の本のカバーにこの頭を使う許可も下さった。数年前に亡くなった。

 

 かくして、この頭はオルティス・コレクションに入った。すぐにロシアの展覧会に貸し出され、またすぐに大英博物館のオルティス・コレクション展(カタログIN PURSUIT OF THE ABSOLUTE ART OF THE ANCIENT WORLD FROM THE GEORGE ORTIZ COLLECTION , ROYAL ACADEMY OF ARTS, LONDON 1994)に出品され、急激に世界の注目を集めることとなった。日本からも、この頭を見るためにだけロシアに出かけた学者もいた。

 世界にショックを与えたのである。なぜ? (つづく)

 
 

 

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