《欧亚美术》  犍陀罗艺术 

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 Column

COLUMN 22


ゼウスの足
(1)
 


 やはりこの「ゼウスの足」に関しては、ぜひ書き残しておきたい。
誰れから文句を言われようとも。
 

 たしか1996年頃だった。小さい木箱が私のギャラリーに国際郵便で届いた 。パキスタンからの荷物は、木箱であっても、いつも白い布でつつまれている。今だにその理由がわからないのだが、おそらく税関で開けさせないためだろう。

持ち上げると、内でゴソゴソという音がする。いやな予感がした。これもよくあること、内のものがこわれているのだ。郵便局で投げるからだろう。それと、彼らパキスタン人の梱包は極めてラフだ。

 

 こんなことがあった。ストゥッコ(塑造)の彩色の残った、大きな美しい仏頭をある男が送って来たことがあった。数百万で簡単に売れる、すばらしい頭である。やはり箱の中でガタガタ・ゴソゴソと音がした。内で大きくこわれていた。そばで見ていたその所有者の男はそれを見て泣きだした。「これを日本で売って老いた父に家を建ててやろうと思っていたのに……。」彼らは召使いに「これ荷造りしておけ」と丸投げするだけだ。だから私は「召使いにやらせて自分でちゃんとやらないからだ!こんないい頭を」と怒鳴ってはみたものの「老いた父に新しい家を」という言葉には私もジーンときた。なかなかできることではない。その夜遅くまでかけて、ていねいに直してやった。けっこうよく直って高く売れて彼は喜んだ。家を建てる前に、老父は亡くなったようだが。
 

開けてみるとやはり、ひどくこわれている。大理石のすばらしい足のようである。足の脂の表現、すごい!これはギリシヤ・ローマ彫刻だと即座に思った。「一体何んだこれは?白い大理石が使われている。ガンダーラではない。」すぐに送り主のパキスタン人に電話した。彼曰く「ペシャワールから出た大理石の頭の像の足だ」と。以前にもこのコラムで書いた、スイスのオルティス氏所蔵の(今はアラブの王家のコレクションに入って、現在北京の故宮博物院で展観中の)、あの有名な大理石の頭の像の足だと。以前からあの頭の下の部分の破片、胸の一部がでてきたといううわさはかねがね伝わっていた。あのローマ風の有名な頭の胴体が出れば、とみな期待していたところだった。その足がまず出たと。

 

とにかく、箱の中にちらばっている破片をくまなく探し集め、どんな小さな破片も見逃さないようにと、我社のギャラリーの若い女性が三人で集めてくれた。もともとひびが入っていたところが割れたようである。こなごなに割れたそのときの写真がとってあるが、探してここに出す勇気がない。あまりにもむざんだったからだ。
 

 やはり女性三人がていねいに破片の部位を探して、接着して行った。みるみるほぼ完全な状態にもどった。それが写真1である。(つづく)
 


 
写真1
 
 

 

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