《欧亚美术》  犍陀罗艺术 

Gandhara Antiques specialty shop
 

■店舗案内

■ご注文方法

 Column

COLUMN 16


アショカ王碑文
 


 碑文のことを書いたついでに、もう一つ重要な碑文をみすみす逃した話を。

 これはもう30年も前のことになる。その当時パキスタン人がガンダーラを持って売り込みによく来た。当時はあまり持ち出しがまだうるさくなく、ものをたずさえて日本にやって来た。東京の普通のホテルは高いので、青山郵便局を少し入ったところにある「アジア会館」という宿に泊まるが彼らの常だった。そして、我々業者に連絡をとって「見に来い」となる。

 ケージというカラチの業者がいた。彼は昔、タキシラ美術館に来る外国人客を待ちうけ、こそこそと近づき、ふところからニセモノのガンダーラをやおら取り出して見せ、「ガンダーラ、ブッダ、ブッダ」と言って売る仕事をしていた。ニセモノ売りである。今でもタキシラ美術館近辺でよくみかける。彼は美術館近くの兵営につとめていて、サボっての商売だったそうな。非常に頭のいい(?)、すばしっこい男だった。ゼロからこの業界で億万(千万?)長者に登りつめた男だった。英語も片言しか話さないが、数少ないボキャブラリーで、何でも表現した。猪突型の行動力、何も気にせず前に前に進む男だった。

 彼の常套句が“What is the problem? No problem である。何かあるとこの句を力を込めて使った。私も何か問題に悩まされて落ち込むとこの彼の句“What is the problem? No problem を呪文のように力を入れて繰り返す。心が楽になる。皆さんもやってみて下さい。心が軽くなります。ゼロから長者に登った男の呪文ですから。



 
前置きが長くなりすぎたが本文に戻る。彼の部屋に所狭しとガンダーラが置かれていたはずだが、今は何も思い出せない。思い出すのは、この問題の碑文の断片だけである。床にこの断片を置いて写真(写真1)を撮ったのはよくおぼえている。この碑文の文字の書体は見たことがある。アショカ王碑文の書体のそれだ。「もしかして」と思って。しかしそんなものが来るはずがないし、ニセモノをたくさん売るケージのことだ。
 

写真1

 

 しかし気になって仕方がない。写真を紙焼きにして、新宿の紀伊国屋書店に走った。定方晟先生の本があった。タイトルは忘れたが、アショカ王碑文の説明と写真があった。手に持っている写真と本の中の写真を比較してみた。書体はよく似ている。そっくりだが、同じ文章が先生の本の写真の中にどこにもない。「こりゃだめだ」とあきらめた。(つづく)

 

 

 

 Copyright(C) 2005 Eurasian-Art Inc. All Rights Reserved.